世界を見るレッスン・・・ALCOM WORLDから・・・

 語学の老舗アルクの通信講座にはいろいろお世話になりました。特に「NAFL日本語教師養成プログラム」のおかげで日本語教育能力検定に合格できたので、その教材の優秀さは認めるところです。「月刊 日本語」には自分の写真入りのインタビュー記事まで載せてもらい、感謝しております。そんなアルクさんですが、今回はつっこみを入れさせてもらいます。今は中国語ジャーナルの定期購読で「クラブ アルク」会員になってるので、「月刊アルコムワールド」という雑誌が送られて来るのですが、その3月号の記事についてです。

世界のご飯 うまいまずい考

 連載記事の一つに「さすらいのワールドウォッチャー山形浩生の『世界を観るレッスン』」というのがあって、今月号のテーマがこれ。著者のPROFILEには「1964年生まれ。東京大学大学院およびMIT大学院修士課程修了。専攻は都市工学。地域開発コンサルタントとして世界を飛び回る一方、広範な分野で評論・翻訳活動を行う。」とあります。かなりくだけた文体で、著者の世界観をユーモラスに展開する内容ですが、今号ばかりはシャレになりません。
 まず、日本は世界的に異様にご飯の美味しいところで、ベトナムやタイ・中国もマズイものを見つける方が難しいくらいと言う。それはいいのだが、この後がスゴイ。ダメなところはどうしようもない、と言い、「単純に貧しいだけ」のところもあり、その例がモンゴル。彼に言わせると、モンゴルにはヒツジしかいなくて、それも寒くてエサ不足でやせてるから脂まで食べるために焼くなんてもってのほかで、ゆでるしかないそうです。本当でしょうか? モンゴルの方、これを読んでいたら教えてください。
 また、気候に恵まれているのにまずいのがフィリピンで、「ろくな料理に出会ったことがない」そうで、フィリピン料理と言って思いつくものは何もないはずだと断言しているのです。僕は、料理の名前や種類ををパッと言えないけど(すぐ忘れちゃうので)、「JCNC日本ネグロスキャンペーン(現・あぷら)のツアーでネグロスに行ったとき、どこでも美味しかったですけど・・・。昨年末の、ハロハロプロダクツのイベントで、マリアテレサ・ガウさんに久しぶりに会ったときも、ランチ付きだったんですけど、美味しく楽しく過ごしましたよ。
 さらに、料理のまずい国は、なぜなのかいろいろな説を紹介してくれます。タイやベトナムが同じ素材で美味しい料理を作るのに、なぜフィリピンでは発達しなかったのかというと、歴史的に強大な王朝が長期間続いたことがないからと、「外国遍歴の長い人々」は言いあうそうです。そして、「ここには書けないような差別的な説明もある」として、「ある宗教」の地域では、酒を飲むなという戒律に従うような人々は味へのこだわりがないから、まともな料理を発達させられないという説を紹介しています。そう、わざわざ書くということは、筆者自らの差別意識がある(少なくとも、それをおもしろがっている)からに相違なく、誰かが言っていることにして、ごまかしているだけだと言えます。また、イギリスにはまともな料理がないというのは、自国民ですら認めている公然の事実だそうです。これなんか、どうやって(何と比べて)「まずい」と自国民が認定するんでしょうね。難しいんじゃないかと思いますけど。フィリピンの話は著者の舌がどうかしてるだけでしょうから、説明がつくんですが、こっちはどうにも説明がつきません。
 最後に、その味音痴のイギリス人が植民地にしたところはどこも美味しいものを産するところばかりで、それについて「うまいもの食いたさに植民地開拓」という説があって、著者はこの説が気に入っているとのこと。おまけは、日本人が内にこもりがちなのは、国内に美味しいものがあふれているせいで、居心地の悪さを人工的に醸成することが経済発展においても重要だというオチ。
 ここまで読んで、むかついてきた方も多いんじゃないかと思います。ウチも夫婦でむかついて、思わず読者ハガキで編集部に「質問状」を出してしまいした。お仲間同士で居酒屋談義なら、あるかもしれません。いわゆる「床屋談義」なら、床屋さんも「へぇ、そうなんですか。なるほど。」なんて言ってくれるでしょう。一度でも外国に行くと、「○○では・・・なんだよ」と異文化体験をおもしろく語るのはよくあることです。でも、ここはあの『アルク』の、しかも「多文化と学びの地球人マガジン」と銘打ってある雑誌ですよ(しかも、その中の「多文化」というカテゴリーのページ)。他のページは、アーサー・ビナードとか、トニー・ラズロとか、そうそうたるメンバーが書いていたり、特集記事も毎号、頑張ってるんですけどね。残念です。対応によっては、アルクに対する態度を考えなければならないと思ってます。